W4RTのOBF817 CWナローフィルタが817NDで巧く動かない

W4RTのサイトのFAQによると
“One-Board FilterはFT-817とFT-817NDの両者で同様に動作しますか？ Yes.”
とある．
しかし，私の経験ではNoである．
W4RT Electronics曰く
“OBFは817にも817NDにも多数実績があり問題は起きていない．”
だそうだが，下記トラブル対応の一例をご覧頂きたい．.

Yamada Radio Clinic

W4RTのサイトが2006年9月にリニューアルしている．
現在，FAQは次のように書き換えられている．

I have the FT-817ND. Does the OBF install the same as in the FT-817?（私はFT-817NDを持っています．FT-817と同様にインストール出来ますか？）

Maybe, but some of the FT-817ND units have two very-small SMT resistors placed in the filter circuit where SMT capacitors were used before. If your FT-817ND has the resistors, they need to be preplaced with the proper capacitors. This requires proper SMT skill and equipment. If you don't have both, then we strongly urge you to have W4RT Electronics perform the installation for you. Please see the manual.
（おそらく出来るでしょう．ただし，FT-817NDの中にはフィルタ回路に旧来はチップコンデンサを使用していた場所に二つの小さなチップ抵抗が使用されている場合があります．もしあなたのFT-817NDが抵抗を使用しているならば事前に適当な値のチップコンデンサに換装しておく必要があります．これにはチップ部品を取り扱う道具と技術が要求されます．あなたがこれらの両方を持ち合わせておられないようでしたらW4RTにインストールをやらせて頂くよう強くお奨めします．マニュアルをご覧下さい．）

これこそ，私が2005年11月，下記に一報を記したこと以外の何物でもない．

ある日，古い友人であるSteveからメールが来て

“やあ，FT-817NDを新調してW4RT'のOne-Board Filterを購入予定なのだ．ＤＩＹインストール出来るよね？”

Installation Manual を読んだが，それは簡単に出来そうだった．
なので彼には “ああ，いいですよ，どうぞ”と伝えた

Steveは2台のFT-817を所有している，2台とも送って来た．
古い方にはオリジナルのムラタSSBフィルタとヤエス純正オプションコリンズCWフィルタが搭載されている．
そして私は新しい方の817NDにOBFを注意深く組み込んだ．

組み込み後，2台を聴き比べてみた．
そうしたところが，OBFのCWナローフィルタで聴くと（一つの信号に対して）複数のビートが聞こえるのに気がついた．

私は何かOBFに不具合があると感じた．

# この症状は気がつき難いかもしれない，信号のピークの両脇には確かにヌルが存在する．
# しかし，そのヌルの向こう側に別のピークがある．
# 単一キャリアの信号を聴きながらダイアルを回してみるとわかると思う．

Steveが販売元にメールを送り症状について問い合わせしたが，彼らはOBFの不具合について理解出来ない模様だった．
私の技術に問題があるかのような対応だった．

まあ，私もアマチュア無線を趣味とし工作好きとして35年以上もやって来ている訳で．
交渉にムダな時間を費やすよりも自分で解析するほうが早道だと思った．
OBFを調べてみよう，この症状を解決しよう．

これが複数ビートの症状． アンテナコネクタにSSG(Megro/MSG-2610)をつなぎ，AF出力を電圧計で読んだもの． 受信周波数は10MHzに固定しSSGの周波数を10MHzの周りで変化させた． 青いラインがOBF，ピンクがオリジナルのムラタSSB + ヤエス純正Collins CWフィルタの構成である． これを見て，OBFではCWナローを聴いているときにもSSBフィルタが生きているのではないか？と思った．

広いフィルタと狭いフィルタが同時に並列動作している場合，（振幅特性だけを考えると）広い方が支配的になると思われるかもしれない． しかし，実際はもっと複雑な話になる． 狭い方のフィルタ特性の肩あたりの遅延，位相特性はこのように(by Rockwell Collins)大きく変化するので合成されたオーバーオールの特性はヌルを生じ，かなり乱れたものになるだろうと思われる． これが今回の不具合の原因と推察する．

old FT-817 IF SSBフィルタはコンデンサ結合されている

new FT-817ND IF 新しい817NDでは抵抗結合に変更されているようだ

OBFのSSBフィルタと新しい817NDとの組み合わせの問題点 OBFフィルタボードの入力は「Ｔ字型」の抵抗回路になっている 直流電流がこのように流れる結果としてダイオードスイッチを常にオンしてしまう． CWナローを聴いているときでもSSBフィルタが生きてしまっているわけである．

Fix Step 1 OBFから817NDメインボードへ行くジャンパワイヤを0.01μFのコンデンサに変更

Fix Step 2 817NDメインボードのR1498とR1499をショートする． かなり細かい作業！（省略も可かと）

CWフィルタの応答をもう一度プロットしてみた． 今は正常動作している．